大学案内

College Information

学長が語る 障がい児保育

学長が語る 障がい児保育

第1回

保育観の転換と統合保育

統合保育の巡回相談員という立場で初めて保育現場に関わったのは1976年でした。制度としての統合保育が始まったばかりで、保育現場では、大きな混乱がありました。それは、保育現場が、必ずしも望んで障がい児を受け入れたわけではないという要素もありましたが、何よりも大きかったのは、統合保育という営みが当時の保育観と相容れないものだったからでした。
当時の主流は、「集団行動重視」の保育観でした。号令一下、子どもたちを一糸乱れずに統御できる保育者こそ、有能な保育者と考えられていました。そこでは、当然、集団行動から外れる子は、「困った子」とされてしまいます。障がいのある子どもたちの多くは、まさにそのような子どもたちでした。「あんな勝手な行動を許して良いのですか」「保育の妨げになっています」「もっとふさわしい場所があるのではないですか」・・・障がい児に対するそのような言葉を多くの園で聞きました。保育者のそのような意識が周りの子どもたちに反映し、障がい児に対するいじめもよく見られました。

一方、別の保育観も、当時、力を持ち始めていました。1974年頃だと思いますが、ある保育園で年長さんが器楽合奏の練習をしていました。ところが、一人それに参加せずに別の遊びをしている子どもがいました。保育者は、それを注意することもなく、是認していたのです。私は、その場面に少なからずショックを受けました。「そうか、こういう保育もありなんだ!」と。集団行動をとらせることを絶対視せず、その子にとって今大切な活動は何だろうという視点に立った保育観でした。この体験が、その後の統合保育の巡回相談で大いに役立ったことは、言うまでもありません。
どのような保育観が正しいのか断言することは難しいと思いますし、たぶん断言してはいけないのだろうと思います。ただ、統合保育が機能するためには、どうしても「集団行動重視」の保育観から「個別行動重視」の保育観への転換が必要であったことは、たしかに言えることだと思っています。